別れ

毎朝会社に行く前に、必ず立ち寄るコンビニがあります。そこにはベトナム人の女性の店員さんがいて、お客さんが少ない時は、会計の際一言二言さりげない会話を交わすのが日課でした。

私はいつも会社で飲むお茶か水を買うのですが、たまにウイスキーコーナーに180㎖のミニボトルですがサントリーの山崎や白州が入るときがあります。

数か月に一度くらいしか山崎は入荷しないのですが、毎朝入っていることを楽しみに、ウイスキーコーナーを覗きます。

過去買えたのは山崎が一本だけでしたが、とっても嬉しかったのを覚えています。

入って来るウイスキー、最近は白州になっていますが、それでも買えることを楽しみに、毎朝の確認は欠かしていません。

10日にいっぺんくらいは、家から飲みのを持って来たりすることもあり、朝コンビニに寄らないことがあります。

翌日、そのコンビニで行って、会計をするときに彼女から『なんで昨日来ない?、入っていたのに!』と言われたりします。ふしぎなもすね。めったに寄らない日はないのに、その時に限って入っているのです。そんな会話を2回くらいはしたと思います。

ある日、家から飲みかけの水のペットボトルを持ってきた日、今日はいいかなと、寄らないで会社に向かおうとしました。

数歩、歩いてから、過去2回経験したように、また翌日に『なんで来ない?』と言われるのも残念なので、引き返してみると・・・

ウイスキーコーナーには白州が4本残っていました。本当に、寄らない時に入るものだという事が良くわかりました。

おそらく4本は入ってきた本数全部なのかもしれません。当初は2本だけにしようかと思いましたが、前日知人から、株で儲かったからごちそうすると言われ、美味しいお店に連れて行っていただいたことを思い出しました。

『白州4本全部買っていい?』というと『転売しないなら』ということで、4本買わせていただきました。

2本は、ごちそうしていただい方にお渡しし、家には2本持って帰りました。

一週間くらい経って、朝の会計の時に、彼女から『あと何本のこてる(残っている)?』と聞かれ、2本と答えたら、『もっと大事に飲まないと』と言われてしまいました。

めったに入らないのだから、確かに、私も大切に飲まにといけないと思いました。

先日奥さんと2人で2杯ずつ飲んで、3本目は無くなりました。そして、今最後の1本を少しずつ飲んでいます。最初の一杯はストレートで。2杯目はハイボール(炭酸)で割って。

ハイボール(炭酸で割って飲む)が美味しいウイスキーを先だって3本ほど、当ブログでピックアップしましたが、買える(手に入る)のならば、イチオシ、実は白州だと思っています。

特に、白州をハイボールにすると、青りんごの様なフレッシュな風味がなんとも言えません。とってもおいしいと思います。

 

さて、話は変わりますが、人生には幸運の流れ、めぐり合わせというものがあると思っています。科学的には説明の出来ないことなのですが、私の60年の人生では幸運の流れは、不幸の流れの三分の一くらいだと思っています。

良いことの流れは悪い事の流れよりも、だいぶ少ないのです。この白州4本をゲット出来た後、週末には府中の柏屋さんで白州のフルボトルを定価で買うことができました。

ウイスキーについては、良い事はこの2つくらいで、この良い事が起こる前までは、楽しみにしていたヤフオクのウイスキーの入札、6回連続でわずかの差で指し負けることが続いていたりします。

先物の運用でも、調子の良いときは、負ける気がせず『買い』でも『売り』でも勝ち続けることができたりします。この幸運はずっと続くのかと思うと、大きな社会変動のうねりなどの拍子に負けると、調子の良かった時の2~3倍の大負けを喫したりするものです。

良い事が1つあると悪ことは2~3つはある。恐らく人生をしめくくると、だいたいそんな感じなのだと思います。偉そうな事を言いますが還暦を過ぎると、人生の終局図がおぼろげながら見えてくる気がするのです。

だからこそ、良い事の流れが続いている時は、その流れを大切にしないといけないと思います。彼女が言いたかったことは、『せっかく手にいれた幸運は大切にしないといけない』ということだと思ったのです。

私は、以前、運用で手にした収益を更に増やそうと、欲をかいたばかりに、その何倍もの損をしたことがあります。

作家の村上龍さんが20年くらい前に『あの金で何が買えたか』というタイトルで、世間で躍る桁外れなバブリーなお金で、真に必要なものがどれくらい買えるかを、絵本にしていた記憶があります。

私も、いまあのお金が残っていたら、ウイスキーも毎月10万円買ってもかなりの年数買い続けることが出来たと思います。住宅ローンも半分近くは返せたのではないでしょうか。

 

大きく横道にそれましたが、毎朝彼女とのさりげない会話は、きっと幸運の源泉をいただいていたのかもしれません。

他の日本人スタッフの誰よりも一生懸命働く彼女の姿から、単にウイスキーコーナーの話だけでなく、心のどこかに幸運を呼び込む素敵なパワーをもらっていたような気がします。

 

このような毎日が続くなか、ある日彼女が勤めるお店のことを聞く機会がありました。仕事の関係で多少お店ともつながりがあるため、情報が入ってきたのです。

伝え聞くところによると、諸般の事情でお店をしばらくの間、従来通り遅くまで営業できない事になり、スタッフも大幅に減らして、体制を組み替えるとのことになっそうです。彼女はお店を辞めて、ベトナムに帰るということでした。

突然のことで私もびっくりしました。先週の金曜日に、彼女に『いつまで?』と聞いたら、『月曜日まで』と答えが返ってきましたが、その時彼女は泣いていました。

コンビニは朝早い時間なのに混んでいて、慰める暇もなくお店を後にしました。悪いことを聞いてしまった気がして、しばらくお店の外で佇んでいました。

勤めているビルの職域食堂で、ごちそうしようかとも思っていましたが、別れは突然に来てしまいました。残された時間も少なく、何をしていいかもわからなかったので、喜んでいただけるか分かりませんが、自分が過去作った巾着をお渡しすることにしました。

他にも日本の思い出になればと、扇子とうちわも用意しましたが、その日も妙に混んでいて、会計の時に、とっさに鞄から取り出せたのは巾着袋だけでした。

綺麗にビニールの袋に入れてお渡ししました。

uribouwataru.com

『綺麗』といって下さいましたが、気にいってくださるといいのですが・・・

 

昨日の水曜日、いつも一緒にシフトに入っている女性に、いつ頃彼女は国に帰るのか聞いたところ、『今頃ちょうど飛行機の中』という答えが返ってきました。

外に出てビルの間から空を見上げると、霞がった空は少し寂しげに冷たく見えました。

1年間でしたが、私は彼女から大切なものをいただいていたのだと、しみじみと思いました。祖国でも素晴らしい仕事に巡り合え、幸せな人生を送って欲しいと、心から願っています。

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